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インタビュー:SIRI SIRIデザイナー岡本菜穂

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現在ショップにて展示中のコンテンポラリージュエリーブランド「SIRI SIRI」。デザイナーの岡本菜穂さんに、自身のデザインやものづくりへの姿勢を伺いました。伝統技術とデザインとが自然に調和しながら、唯一無二の存在感を放つSIRI SIRIの作品の魅力に迫ります。

— 伝統技術を用いながら、すごく自然にその技法から生まれるデザインを商品に溶け込ませているような感覚をおぼえます。職人さんとの関わりについてや岡本さんの考えるものづくりについてお話を聞かせてください。
2006年にSIRI SIRIをスタートさせた当時、日本の伝統技術を使ったいろいろなプロジェクトが地場産業の活性化を目指して立ち上がっていた頃でした。でも、その取り組みに私が魅力を感じていたかというとそうでは無くて、地場産業を活かしたものづくりをするときに起こる素材や技法の制約に、違和感を感じていました。この素材を使わなければいけない、という話からものづくりをするのではなくて、デザイナーとしてつくりたいものを地場の技術をつかって表現をするという流れが自然なのではないかと、そんな風に思っていました。

— 江戸切子をつかった商品はどのようにして考えついたのですか。
江戸切子という技法をあえて使ったものではなく、表現の方法のひとつとして江戸切子を考えたところが発端になっています。前々から現代の日本のプロダクトは、どこか素材を取って付けたように扱っている、つまり何となく不自然さを感じさせるものが多い、という印象を持っていました。シャネルなどは地元のレースを普通に商品に使いながらも、それをわざわざ打ち出すようなことはしていないですよね。技術が前に出てくるのではなくて、当たり前につかっている。そういうように、普通にそれらの技術をつかって勝負できるブランドがあってもいいなと。伝統工芸だからそれが魅力的ということではなく、モノが素敵である。ということが大切なのではないでしょうか。江戸切子ですが、その土地に切子という特殊な技術を持つガラス工房がある、ということは、そこになにかしらの理由があって存在しているということなので、たまたまですけど、私が東京に生まれて、東京で活動をしながら、知識や制作を地産地消のようにすることができたのは良かったと思っています。あまり根拠はない考えなのですが、自分にとって身近に感じられる技術を使ってものづくりをすると、嘘が無いものができるのかなぁということが頭にあります。もちろん、東京以外での活動も増えてきていますし今後もチャレンジしていきますが、日本人として常に身近にある素材や制作技術を使う事がこれからも主軸になっていくとは思います。

— 職人さんとはどのようなやり取りをしてデザインや考えを伝えるのですか。
先ずは自ら職人さんのところに足を運んで、直接つくってもらいたいという意志を伝えます。下町だからなのか、本当に人情味があって、会ってお話しているとすごく親身になって協力してくれます。これまで江戸切子では扱わなかった素材をつかって制作をしたときも、職人さんが職人さんとして新しいものや技術を生み出すことへの喜びを見つけたのか、どんどん乗ってきてくれました。私の場合はデザインしたものを模型にして職人さんに見せるのですが、職人さんからアドバイスをプラスαしていただくことで、もっとよいモノができあがります。作品の出来上がりに込めるニュアンスの部分まで図面で指示をすれば職人さんはきちんとそれ通り仕上げてくれるので、職人さん任せではなく、そういったことも緻密に計算して図面にしていきます。

— 日本人であるということを意識していますか。
私は、日本人のものづくりの資質は素晴らしいと思っているし、SIRI SIRIを通して日本の文化や美意識を世界に伝えていきたいと考えています。海外でインタビューをされたときに、日本の文化についてきちんと言えるようにならないと、私の活動や作品も広がっていかないなと感じるんです。日本人同士だと共通認識というか、ニュアンスの部分を説明しなくてもなんとなく通じてしまうんですけど、抽象的にモノづくりをしているだけではダメだなと思うようになりました。日本人は品質の高いものをつくっているので、やっぱり世界に出て行く方がいいと思うんですよね。だから海外できちんと勝負できるためにも言葉にすることは大切だと思います。モノづくりをしている人たちはまだうまく言葉に出来ていない気がしています。

— ファッションについてどのように考えていますか。
ファッションは生きていく上で必要不可欠なものではないかもしれませんが、でもどこか惹かれるものがありますよね。そこに人間が人間であるが故の、人間らしいところがあるのではないかと思うんです。「食」は生きる上での根本的なところですけど、ファッションの無意味さにある魅力こそがファッションの芯なのではないかと思うんです。これってよく批判されるところだし、経済が停滞していくとブランド物を買うことを否定されがち。それでもファッションが衰退しないのは、女性がお花を好きなように、あらがえない本能のようなものが人間にはあるのではないでしょうか。

— ジュエリーについても同じように考えていますか?
ジュエリーはファッションの一部という考えを持っています。活動当初、コンテンポラリージュエリーというものは、それこそ意味を持たせ過ぎているものが多かったように思います。おもしろい試みではあるんだけど、私はもうちょっと女性のファッションに合うものや、日常の洋服に似合う、ウキウキするようなものをつくりたかったんです。それ単体ですごくおもしろくてもコーディネートが成立しないことは、私にとっては意味がないことです。

— SIRI SIRIさんのつくるものは、金具などの細かいディティールもとても素敵ですね。
アンティークのジュエリーが好きなんですが、アンティークのジュエリーって本当に細工がよく出来ているんです。でもよくよく考えてみると、その細工も当時手作りでつくるしかなかったという状況がきっとあって、精度の高いものをコツコツとつくっていたと思うんです。例えば金具にロゴがちょっと入っているだけでドキっとしたりする感覚は、実際につかってこそ気付くところだし、身に付ける気持ちよさはそういう細かいところからも生まれるはずだから、商品を全体としてみたときに、そういう細かいところへの配慮というものはアンティークジュエリーから倣っているところがあります。

— 最近はデザインするものが自然のものをモチーフにしたものが増えてきたように感じます。
昔は硬質な感じというか、建築ならコンクリートがズバーンというものが好きだったんですけど、特に311以降、居心地がいいものや自然が好きになってきました。それを特に意識してものづくりをしているワケではないのですが、ちょっとずつつくるモノに影響がでてきていると思います。基本的には常に「変わりたい」と思っているので、ものづくりをする人以外とも話しをするようにしています。自分がどれだけの可能性を持っているのかを見てみたいし、どこまでどんな幅があるのかに興味があります。変わることが可能性だと考えています。

— 暮らしの中で気を付けていることはありますか。
「どうでもいいや」と思い始めると本当にどうでもよくなってしまうので、そういう風には思わないようにしています。例えば今のスコッティのデザインが生まれた時の話なんですけど、たしか70年代にあったコンペ*の受賞作があのデザインなんだそうです(*注: 正確には1986年)。コンペのテーマが「花柄」、ロゴも決められていたのにもかかわらず、その両方のルールを破って受賞したんだそうです。デザインした松永(真)さんによると、花柄のティッシュは日本の住宅に合わないからということだったそうなんですけど、そんなことを言うデザイナーもすごいと思うし、選んだスコッティもすごいって思うんです。話は逸れたけど、だからティッシュはスコッティだ!って(笑)そういうこだわりはありますね。ものづくりの内側にいる人の気持ちもだんだんわかるようになってきたというか、こういう仕事をしているとお客さんにも、そんなモノづくりの背景みたいなものも踏まえた上で買ってもらえたらうれしいです。

— SIRI SIRIとして今後考えている事はありますか。
私はSIRI SIRIの一デザイナーという立ち位置で、SIRI SIRIの世界観を表現していくことをしてきたので、これからはSIRI SIRIとしてのジュエリー部門は私、ファブリックは誰、とかそういうように展開していけたらと考えています。ジュエリー以外にも興味があって、例えばストールやバッグといった、文字通り身体に近いアイテムから挑戦していきたいです。プロダクトの世界では伝統技術に裏打ちされている1616 / arita japanのようなものが結構あるように思うんですが、日本のファッション業界はまだそういうことが少ないと思います。つくり手が日本人ならば、藍染めや織りに限定しなくても、海外の人に伝わる日本的な感覚は表現できるはずなので、そういうことを意識したアプローチをしていきたいです。そしてもっと、SIRI SIRIとして何を表現したいかということを哲学的に掘り下げていきたいと思っています。それは机の前で考えていても答えが出てくるワケではないので、こうして大阪に来てみたり、ぼーっとしてみたり、運動してみたり、全然違う分野の人たちと話をしてみたり、ものづくりじゃない人たちとも触れあったりしながら、考えていきたいなと思っています。

SIRI SIRI デザイナー 岡本菜穂(おかもとなほ)
建築家で抽象画家の父の影響で、幼いころよりアートやデザインに囲まれた環境で育つ。 桑沢デザイン研究所スペースデザイン科在学中、より身近な自分自身の身体に近いもののデザインに対する興味が高まり、ジュエリー創作に向かう。 2006年 ジュエリーブランド「SIRI SIRI」を発表。 建築、インテリアデザインを学んだ経験を活かし、日常の身のまわりにある素材をジュエリーに昇華させる独特な世界を展開する。
http://sirisiri.jp/

SIRI SIRI 受注展示会 JEWELRY IN MY LIFE
会期 / 開催中 – 11月10日(日)
時間 / 11:00 – 19:00
場所 / graf(大阪市北区中之島4-1-9 graf studio 1F)
お問合せ / graf(tel. 06-6459-2100 mail. shop@graf-d3.com